第十四章 若い

昨晩は前日の疲れもありぐっすり眠ることができた。

いよいよ今日はベトナムの取引先が決まるのか、決まらないのか、商談の日。僕の会社は社員3名、かたや相手はベトナムで数百名の企業。かなり格差はあるものの共通の知人を通じて代表者とアポを組むことができた。

どんな人柄なのか、そもそも日本語は大丈夫なのか。焦る気持ちを落ち着かせながら朝食ビュッフェをいただく。

すると白いビジネスシャツ着た数名の若い日本人がやってきた、出張なのだろう。就職は、学校の進学と違いどんな企業や業種に属すかでその後の価値観に大きな影響を与える大切な節目。20代から海外出張、異国のビジネスパーソンとコミュニケーション、彼らにとってとてもよい経験になるだろうと感じた。

実際に僕は大学を卒業してすぐに渡米、社会人となって初めに働いたのはベニスのレストランだった。そこで出会った日本人、アメリカ人、メキシコ人などから学んだことはその後の価値観に大きな影響を与えてきた。

そろそろ出発の時間だ、僕はフロントでタクシーを呼び一人企業へ向かった。

タクシーの中、外を見ると多くの車やバイク、日本では見慣れないフォーやバイミーの屋台、そして文字はまったく読めない。こんな不慣れな街で本当にビジネスを立ち上げられるのか。急に不安に襲われ、あえて仕事のことを忘れるよう窓越しに道行く人を眺めていた。

タクシーに乗ること15分で到着。建物は予想に反してベトナムでよく見かける一般的なビル(入り口に数台のバイク置き場、ガラスを挟んで受付カウンター、その奥に階段や応接室がある間取り)、日本で例えるなら繁華街にある4.5建ての雑居ビルのような建物だった。

(イシダサンデスカ)

受付カウンターでポロシャツ、チノパン姿の30代ベトナム人男性が声をかけてくれた。名刺交換をすると駐在員向けに不動産業者を行うヒエン社長とのこと。昨晩、今日日本から不動産業者が来るので紹介したい、とここのタム社長から連絡があったそうだ。

立ち話をすること数分後、二階より落ち着きのあるゆっくりとした様子でタム社長が降りてきた。

第一印象は、若い。

20台前半だろうか。短髪、すらっとした体型で清潔感もある。そしてすでに実力者としての落ち着きというのか、時間の余裕を感じた。

(ハジメマシテ、タムデス。ヨロシクオネガイシマス)

私たちは名刺交換を終え応接室へ入ることにした。

つづく。

 

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